特集Scene

東京室内歌劇場による「利口な女狐の物語」

第276回

2014年3月26日

2014年3月中旬に東京室内歌劇場によるヤナーチェクのオペラ「利口な女狐の物語」が上演されました。

これは東京室内歌劇場がオペラ7回とコンサート3回で計5日間おおくりするミニ音楽祭のようなものの一環です。会場は調布市のせんがわ劇場。

有名なオペラ劇場・・・・ということは全くありません。なんせ100席位ですし。アングラ芝居とかが似合いそうな、階段上にイスを置いたりする小空間です。

まさか、そこにフルオーケストラというわけにもいきませんが、ピアノ1台というわけでもなく、ピアノにフルートとヴァイオリン各1本が加わります。管代表と弦代表で、とりあえず管弦楽ですね。そして指揮者も。

ソロ歌手は譜面通りでこの作品で大事な児童合唱もちゃんとつきます。

こうした手作り型で工夫して制作された7回の上演にお客さんもよく入っていました。都下のオペラマニアやヤナーチェクファンというより、地元の周辺の方々が多いようにお見受けしました。

こういうチンマリしたプロダクションはスケールは小さいですが、お客様は文字通り目前にいらっしゃいますから、ごまかしはまったくききません。声量で圧倒だけでもだめです。あらゆるバランスや表現を一から確認しなおして芝居も音楽も行き届いたものでないと楽しい空間を作れません。

ですから演出もメトロポリタン歌劇場を本拠地とするプロ中のプロの飯塚励生(れお)さんが起用されています。

メトロポリタンといえばニューヨークにも同じく100名位のアマト・オペラというのが長らく有名でした。夫婦だけで何十年もやっていた名門です。指揮、アレンジ、掃除、もぎり、幕の開閉等々すべてを二人だけでやっているのです。幕間に提供される紅茶は紙コップを100個並べて2個位のティーバッグを次々にお湯につっこんでいって3分くらいで準備して配っていました。

そこにメトロポリタンの大スターたちも若き日には結構出演していて皆が「勉強にもなったし、それ以上に最高だった」と口を揃えます。

調布市せんがわ劇場のシリーズも今回3回めだそうですが、来年も行われるようです。目前で汗が飛んでくるようなところで真剣勝負が行われて、演奏家も何十人分の表現をして頑張っています。

これは近隣の方もマニアの方もお薦めです。何よりチケットを買ってあげて主催の東京室内歌劇場を応援してください。ここが続けている活動は貴重です。

ところで、私個人は偶然にも、しばらく前にパリのバスチーユのオペラ座でこの作品を拝見しました。あそこは約2700席。短い期間の間に2700席と100席の会場で同じ作品を観るのも貴重な経験でしたが、このヤナーチェクの作品自体がそれに耐えうる器を持っていることも実感として確認できました。(平井洋)