特集Scene

二期会蝶々夫人を指揮したダニエーレ・ルスティオーニ

第278回

2014年4月30日

二期会の蝶々夫人の最終日にようやく行って来ました。今回のプロダクションでは、栗山昌良先生の定評ある演出と舞台、今やすっかり日本を代表する蝶々さんになりシーズン全体の記者会見にも歌手代表ででたくらいの腰越満美さん、そしてあちこちで名前を聞き始めた若手指揮者のダニエーレ・ルスティオーニといったところが注目点でした。

いつもでしたら、プレス公開ゲネプロにお邪魔して、先行して「あーのこーの」言うのが我々の一応役目です。ですから多少勝手が違っているわけですが、これならこれで皆さんのご意見を聴いたりしてそれと比較できるのは、なかなか楽しみでもあります。

以前は、こういう楽しみはあまりありませんでした。1ヶ月以上も経ってから雑誌で「高音の伸び」がどうしたこうした、と言われても連日何かどうかを聞いている身としては記憶をたどるのも大変な作業です。

それが今は、直後どころか、幕間、あるいはもっと前の練習の合間に、歌手仲間やらスタッフやらから、あれこれ情報が飛び交います。スタッフは当然売らんかなで、いいことだけを書き連ねますが、それでもやはりどこかに本音が滲んだり、ポロッと失言したりもあり、そのあたりを拾ったり無視したりしながらこちらも予想するわけです。

今回は指揮者の前評判がかなりでした。それを先入観で出かけて行くと、ハードルはぐんぐん上がり、ちょっとやそっとのことでは良いとは思えず、「聞いてたわりには・・・・」となることもままあります。それでややハードルを下げさせる手を打ってくる広報スタッフもヨーロッパなどには時々いて、油断なりません。

で、今回ですがダニエーレ・ルスティオーニは、聞きしに勝る逸材だと思いました。

まず登場してきて手を額にかざして照明を避けながら客席の入り状況をみたりしています。ラザレフなども得意な観客とのコミュニケーション。こういうことは、できる人とできない人がいて、経験とかベテランだからとかはほとんど関係ありません。若手でもうまいやつはうまいのです。うまいというのは要するに動作が自然。

それで客席がまあまあうまっているのを確認して、さあ音を出すと、その響きがすっきりときれいなのに、すぐ驚かされました。よほどどの音符も聞こえているのでしょう。オーケストラというのは指揮者が聞こえているような音を出しますから。

動作は大きめで率直。コントロールして何かをサジェストするのではなく、素直に自分をだしているように見えます。ですが、それが自意識的でなく客観的。その結果一緒に歌ったりしても爆演系にはなりません。

一緒に歌う指揮者はたくさんいますが、この人は本当に全部頭に入っていそう。その結果バタフライにしてもプッチーニにしてもやや通俗的に思われる次元から、もっと上までいつの間にか連れて行かれる感じです。

そして聴き終わってみれば、「バタフライはこんなにいい曲だったのか、プッチーニはすごいなあー」というのが後味として残ります。指揮の動作が派手なのに、作品の印象を残すというのは、Aランクの指揮者の特徴でしょう。主催者はいい人を起用しましたね。

以前呼んだ若手のアンドレア・バッティストーニも良かったですし、今回のルスティオーニがこうですから主催者の選択もいいのでしょうが、全体的にも若手指揮者は順調にでているようです。特にロシア系、ラテン系、イギリス系が目立つといいますか。

以前のイタリアオペラのいい指揮者は職人的雰囲気でしたけれど、これらのイタリア系若手たちは知的視野は広そうでシンフォニーも難なくこなすでしょう。その指揮者達に牽引されて、聴衆もあれこれより広く観に行くようになるといいですね。(平井洋)