特集Scene

『柴田南雄とその時代第1期』発売! シアター・ピースのことなど

第106回

オラショの取材。右から2人目が柴田。1978年

獅子舞の取材。1970年代

2010年8月11日(水)

柴田南雄が亡くなってから今年で14年。20世紀の日本を代表するこの作曲家はいままでも様々なところで紹介されていますが、その際使われる写真はたいてい、晩年のもの静かなショットです。今回の作品集『柴田南雄とその時代 第1期』(Fontec、CD4枚+DVD2枚)では、サンガクシャに山のようにあった中から、創作にも関係するめずらしい写真をいくつか掲載しました。その中には日本各地にフィールドワークに出かけて民俗芸能を録音している様子を写したものがあります。柴田がどのような姿勢で臨んでいたかを証言しているような写真です。

たとえば、長崎県生月島でのオラショの取材の写真。そこでは、オラショを唱える村民にあたかも寄り添うような佇まいで写っています。弾圧された過酷な歴史をくぐり抜けて先祖から伝えられた歌。それをしっかりと記録・記憶に留めようとしている姿には、厳しさとともに優しさが感じられます。獅子舞を取材しているときの写真もしかり。周りにいる子供と関係者に、すっかり溶け込んでいます。肩からかけたカバンには、録音器材が入っているのでしょうか。左手には大きなマイクがみえます。1970年代の写真です。

取材を重ねていくつかの、民俗芸能や社寺芸能を題材としたシアター・ピースが作られました。シアター・ピースとはその名のとおり演劇的要素の強い作品のことで、柴田はそうした芸能を丸ごと舞台に取り込もうとしました。今回の作品集では、《北越戯譜》(新潟県堀之内の盆踊りとわらべ唄)、《遠野遠音》(『遠野物語』、東北民謡)が、DVDとして映像とともに見ることができます。

大学生の合唱サークルのために書いたシター・ピースでは、演奏する若い人を意識したため視点が少し異なります。人間の存在、愛、死が問われ、東西文化の天地創造の神話、声明、宮沢賢治、リルケ、ロルカ、ボルヘスなどなど、様々な文化から題材が選ばれています。音楽も西洋の作曲様式が、初期から古典派、ロマン派、現代に至るまで使われているだけでなく、それに対する非西洋文化として日本の音楽や諸民族の音楽が取り入れられています。博学で学究肌の柴田南雄を通して人間について考える契機となるような作品です。壮大なスケールで描かれていることが、ほんの少しお分かりいただけたかと思います。大学生のために書かれた作品の中から今回は、《宇宙について》《人間と死》がDVDに収録されました。《人間と死》は、初演の映像です。

『柴田南雄とその時代第1期』の大きな特徴の一つは、DVDに収録した4曲すべてが、作曲家自身が大切に保管していた貴重な映像資料をもとにしている、ということです。柴田のシアター・ピースを知りたい人に、役に立つ資料になることは間違いないでしょう。(小野光子)

///////////////////

小野光子(おの・みつこ)

国立音楽大学大学院音楽研究科修士課程(音楽学)修了。武満徹の年譜・作品資料研究を『日本の作曲20世紀』(作品リスト、音楽之友社)、『武満徹 音の河のゆくえ』(年譜・作品表、平凡社)、『武満徹著作集 5』(作品表、新潮社)、『武満徹全集 5』(作品表つき年譜、小学館)などに執筆。また、小学館から刊行された『武満徹全集』では全5巻の編集にたずさわった。翻訳に『武満徹の音楽』(ピーター・バート著、音楽之友社)、編集した書籍に『林光の音楽』(小学館)など。近年、海外の研究者との交友を深めている。