CD・DVD・本Scene

このコーナーではCD・DVD・本をご紹介致します。

柴田南雄とその時代第一期

柴田家のオープンリールの箱の一部
作 曲:
柴田南雄
発売日:
2010年8月10日
価 格:
¥10,000税込み
発売元:
フォンテック
コード:
FOCD9470-5

1996年2月に柴田南雄が世を去ったとき、書斎の隣の書庫も地下のレコード庫も、蔵書・LP・草稿や資料の箱がいっぱいで通路がないほどでした。十年前に家を建てなおして充分なスペースを確保したつもりでしたが、「何もかも保存」がモットーの柴田には足りなかったようです。
 
書棚にあるファイルのうち、「わが家のみつぎ」には所得税の申告書類が、「東奔西走の記録」には乗車券・宿泊の領収書から駅弁の包み紙と箸袋まで貼ってあります。もっとも柴田らしいのは「棄てられぬ新聞記事」4冊で、ヒンデミットが指揮するウィーン・フィルの来日を報じる昭和31年3月11日の朝日新聞の記事で始まっています。

柴田が亡くなって間もなく何かを探しに行ったレコード庫で、段ボール箱に入った多量のオープンリールをみつけました。劣化すると切れやすいオープンリ―ルを扱う自信がなかったので、当時NHKに勤めていた加納民夫さんにMDへのコピーをお願いしました。芸大楽理科で柴田の生徒だった加納さんは快く引き受けてくださり、二三年のちに原テープ二箱とコピーのMDが届きました。そのころ私は体調を崩していて多量のMDを聴く気力がなく、CD棚に並べたまま長い時間がたちました。
 
昨年、大阪の未知の女性から、《優しき歌》を歌うので資料を見せてほしいという手紙をもらいました。たしか加納さんのMDコピーの中に《優しき歌》があった筈と思って探し出すと、それは長野羊奈子さんが1972年にNHKの「音楽のおくりもの」のために録音されたものでした。ピアノは芸大楽理科で私の一年上だった小林道夫さんです。

聴きはじめると半世紀の歳月が瞬時に消えうせ、私は若かったころのなつかしい響きに包まれていました。それから幾つかの作品を聴いてみると、ほとんどが優れた演奏だったのです。古いオープンリールを音源にしてCDによる柴田の作品集を制作しようという考えは、長野・小林お二人の《優しき歌》からうまれたのです。

さいわい平井洋(渉外)、櫻井卓(マスタリング)、小野光子(ブックレット編集)という強力なスタッフに恵まれ、すべての演奏者からテープの使用の許諾を頂いて『柴田南雄とその時代  第一期』(CD4,DVD2)は2010年8月にフォンテックから発売されることになりました。

ソースにしたいテープやヴィデオには状態の悪いものもありました。CDⅡの《ピアノのためのインプロヴィゼーション 第二》は、高橋悠治さんのコンサート(2010年4月2日)での新録音です。柴田が3倍速でVHSにダビングした《宇宙について》は、映像のぶれもあって見苦しい箇所が少なくありません。あえてそれをDVD化したのは、これが1982年の「サントリー音楽賞記念コンサート」での録画で、柴田の作曲家としてのキャリアに一時期を画するものだからです。

第一期に続いて、来年夏のリリースを目標に『第二期』の準備を進めております。二つのシリーズの柴田作品から、時と音楽の移り変わりを汲み取っていただければ、それにまさる喜びはありません。(柴田純子)


収録内容:
CD-1 二つの“優しき歌”
・弦楽四重奏曲第2番 op.5
・優しき歌 op.13
・優しき歌・第二 no.23
・三つの男声合唱曲 no.24

CD-2 70年万博へ
・ピアノのためのインプロヴィゼーション 第二 no.31
・電子音のためのインプロヴィゼーション no.32
・ディスプレイ’70 no.35
・花伝書 no.38

CD-3 《GENERATION》と《わが出雲・はかた》
・GENERATION no.68
・わが出雲・はかた no.70

CD-4  大学生のための合唱演習No.2とNo.4
・歌垣 no.77
・自然について no.91

DVD-1 ふたつのシアターピース
・北越戯譜 no.49
・遠野遠音-柳田国男『遠野物語』および東北民謡による no.106

DVD-2 大学生のための合唱演習№.1と№.3
・宇宙について no.60
・人間と死 no.86

私にはもう出版社はいらない

作 者:
アロン・シェパード
発売日:
2010年6月
価 格:
1,575円(本体 1,500円+税)
発売元:
WAVE出版
コード:
ISBN 9784872904826

レコードでも本でも、結局大手に出してもらうのに頼らざるを得なかった理由は、まずは流通と宣伝の問題だった。地方のショップにまで置いて回るわけにも行かないし、広報でマスコミのスペースを押さえるには大金もツテも必要だった。

ウェブで通販やら広報の概念が変わり、それらはかなりの部分を安価で誰でもができるようになってきた。

となると出版社やレコード会社の存在価値は、その制作時のブランド価値で、自費出版より出版社から頼まれた刊行物、できたら大手有名どころで、というのが多くの書き手の本音だった。「イヤー、・・・書店から『どうしても出したい』って頼まれちゃってネー」

ところが電子出版、特にキンドルやiPadなど電子ブックリーダーの出現でこれも話しが変わってきた。

「最後にテキストが並ぶのなら、自分でやっても同じではないの?多少の見栄えのノウハウさえあれば」と思いたくなるし、『頼まれて』のはずが実質0%から大家で正味10%までだった著者取り分(印税)が、35%とか50%とか70%というのまで聞こえてくる。

こうなったら本当に需要のある書き手は「何で10%で我慢しなくてはならないのか?」と考え始め、少なくとも電子セルフパブリシングの参考書の一つくらい読みたくもなる。そこで、でてきたのがこの本。

思いつきの理屈の本ではなく、実際にこれ自体を電子出版で3万3千部売り上げた実績のある本だから説得力が高い。ブログ連載した「我が半生」を自費出版したい、というレベルと話しが違う。

プロとして値段のつく書き手にとっての話し。

アマゾンやアップルがこんなに美味しいところを見逃すはずもないし、キンドルやiPadはこれを含めてのビジネスモデルだから、書き手はこれらと直接やればいい。

では編集者もいらないか?超腕利きは常に別格だし、単なるIT事務下請けだけ著者と組んでやって著者の取り分の10%くらいもらうか。

音楽会の主催組織、会社ももちろん、この出版社と同じで、基本的には不要な部分が増えているし、少なくとも大きな地殻変動が起きている。(平井洋)

2010年6月30日


収録内容:
私にはもう出版社はいらない
キンドル・POD・セルフパブリッシングでベストセラーを作る方法
特別寄稿 佐々木俊尚
アロン・シェパード 著
平林祥 訳
発売元:WAVE出版

第一章 アマゾンでセルフパブリッシング事始
第二章 アマゾンで売れる本を作るには
第三章 アマゾンにアクセスする
第四章 アマゾンでのマーケティング
第五章 アマゾンをモニターするには
第六章 アマゾンで買ってもらうには
第七章 アマゾン向けの改訂
第八章 アマゾンで世界を目指す

グスタフ・マーラー

作 者:
柴田南雄
発売日:
2010年6月16日
価 格:
定価 1,071円(本体 1,020円 + 税5%)
発売元:
岩波書店
コード:
ISBN978-4-00-602169-6 C0173

岩波現代文庫で柴田南雄著の「グスタフ・マーラー」が復刊された。

最初に岩波新書の黄版で出たのが1984年だから四半世紀前。

当時柴田さんはレコード芸術などで普通のクラシック音楽の新譜の紹介文や批評なども随分書いていた。作曲家としての理論書ももちろん他にある。「グスタフ・マーラー」はその中間のようなイメージで、単なるクラシックの大作曲家の啓蒙書であろうはずもなく、西洋音楽史全体や現代への連なりも解読し、なおかつ「マーラーの9番のCDを買うのは誰のがいいかな」という方への答えも書いてある間口の広さで、多くの音楽ファンに知られた著作だった。

その後、新書の内容で単行本的大きさになった特装板もでて、今回は文庫版。名曲と同じで色々と形を変え、追加の内容もちょっと加えられたりして読み継がれるのは何より。

もう何回も読んでさすがに大体は覚えているから、追加の部分だけ読もうか、と思っても結局全部読み通してしまうのも古典名曲と似ている。

四半世紀の時代の経過を強く感じさせる部分と、ほとんど感じさせない部分の違いの受け取り方も人それぞれだろう。

といってもこの種の本は絶対数でそれほど読まれて来たわけでもない。遅すぎることは全く無いので、まだの方も是非手に取ってみていただきたい。(平井洋)


収録内容:
はじめに――われわれとマーラー

 1 マーラーの復活
  マーラーへの現代的関心/マーラーを理解することの意味/日本人とマーラー/マーラー・ブームのきっかけ/後期ロマン派の好まれる理由/ブルックナーとマーラーは異なる
 2 戦前の日本におけるマーラー
  ナマ演奏の記録 プリングスハイムの「第六」/レーケンパーの「子供の死の歌」/ローゼンシュトックのマーラー/ワルターの「大地の歌」と「第九」/戦前の音楽ファン/戦後の音楽ファン/戦後のマーラー初演

I ボヘミアからヴィーンへ
 1 少年時代
  人生五十年/イラーヴァへ/兵舎のラッパ/ヴィーン音楽院/熱烈なヴァグネリアン
 2 「嘆きの歌」
  「嘆きの歌」の落選/不運な作品第一号/下積み時代
 3 「第一交響曲」
  「第一」以前の交響曲/「巨人」という標題/自然の音/四度の音程/引用の問題/「第一」と歌曲との関係

II 新しい世界への出発
 1 「第二交響曲〈復活〉」
  高貴さと俗臭と/マーラー自身の解説/第一楽章/第二楽章/第三楽章/ベリオ「シンフォニア」/音楽の輪廻転生/第五楽章
 2 「第三交響曲」
  「第三」の標題/ローゼンシュトックの「第三」/冒頭のホルンのユニゾン/旋律線の分析/コラール旋律との関連/古典派の小ぶし/スラヴ音楽と教会旋法/ドミナントへの道/広大な音楽文化圏/第一主題の変形/ポストホルンの旋律の源泉/他の交響曲との関連/交響曲の枠組の拡大/シェーンベルクとベルクへの影響/レコードによる時代の表現
 3 「第四交響曲」
  古典交響曲/通俗的な鈴の音/初演の不評/「子供の魔の角笛」との関連

III 成就と崩壊の始まり
 1 「第五交響曲」
  アルマとの結婚/才女アルマ/指揮者マーラーへの反発/ポピュラーな「第五」/ワルターのアダージェット/三部構成/「子供の死の歌」との関連/見事な対位旋律/第二・第三楽章/ヘンツェ「バッカスの巫女たち」/華麗なフィナーレ
 2 「第六交響曲」
  正統的な古典派交響曲/カウベルとハンマー/ヴェーベルンと「第六」/マーラーとプリングスハイム/強く印象に残る個所/複雑な楽想/重いスケルツォ/抒情的な緩徐楽章/壮大なフィナーレ
 3 「第七交響曲」
  馴染のうすさ/テノールホルン/「夜の音楽」/ギターとマンドリン/「影のように」/中心はスケルツォ/大げさなファンファーレ/多忙な指揮活動/「子供の死の歌」と長女の死

IV 背後の世界の作品
 1 「第八交響曲」
  畢生の大作/「ヴェニ・クレアトール」/表現主義的なマーラー/ソナタ形式の優位/カンタータの第二部/「ファウスト」の音楽/「神秘の合唱」/ミュンヘンでの初演/ワルターの「第八」/忘れがたい演奏
 2 「大地の歌」
  ヴィーンからニューヨークへ/作曲家とアメリカ体験/耽美的な傾向/「大地の歌」のテクストと音楽/九番目の交響曲/中心楽章「美について」/「青春について」と「春に酔える者」/「秋に寂しき者」と「告別」前半/冒頭楽章と「告別」後半/時代様式との結合
 3 「第九交響曲」
  交響曲の頂点/「大地の歌」とのつながり/生涯の発端と終末/最後の「告別」/レンドラー舞曲/ロンド・ブルレスケ/圧巻のアダージョ/背後の世界/マーラーへの追悼音楽

V 開かれた終末
 1 「第十交響曲」
  クックの全曲復元/1910年のマーラー/「第十」の全体構想/「モーツァルト!」
 2 マーラーと二十世紀の音楽
  後期ロマン主義の時代/演奏家としてのマーラー/マーラーと歌劇/特殊な音色の要求/新古典主義の時代/シンメトリー構造の音楽/ショスタコーヴィチとマーラー/前衛音楽の時代/音楽時代の各段階/セリーと偶然性音楽/反ロマン主義的演奏/新ロマン主義の時代

 あとがき



  交響曲第一番ニ長調〈巨人〉
  交響曲第五番嬰ハ短調
  マーラー・ブームが意味するもの――クラシックの現在

  解 説(岡田暁生)
  グスタフ・マーラー略年譜

 本書第一部は,岩波新書『グスタフ・マーラー――現代音楽への道』として岩波書店より1984年10月に刊行された.新書刊行以後に生じた本文中の人物の生没年の異同などについては著者,編集部が訂正した.
 本書第二部の出典は以下の通りである.
 「交響曲第一番ニ長調〈巨人〉」,「交響曲第五番嬰ハ短調」
   ――『おしゃべり交響曲――オーケストラの名曲 101』所収 青土社 1986年9月
 「マーラー・ブームが意味するもの――クラシックの現在」
   ――『声のイメージ』所収 岩波書店 1990年10月